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岡山地方裁判所 昭和29年(行)2号 判決

原告 渡辺五六

被告 岡山税務署長

訴訟代理人 上野国夫 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

一、請求原因一、二(原告の事業、所得額の確定申告及び更正)

は当事者間に争いがない。

二、本件における争点は原告の昭和二七年分の所得額であるところ、証人頼定聰、鳥越保喜の各証言及び原告本人尋問の結果によれば原告は昭和二七年分の事業収支につき帳簿を備えておらず関係書類も完備されていないことが認められるので、同年分の原告の所得は何らかの推定計算によらざるを得ないこととなる。

そこで被告主張の各計算をその基礎となるべき数字の認定及び計算方法について検討することとする。

三、第一表による方法について

被告主張の第一表原告主張の第主表とにおいてもつとも相違する部分は製品売上欄でありその相違は豆すり機売上数を被告は五八五台といい、原告は五〇〇台というところに基因する。

被告が売上数を五八五台という根拠の当否をみることとする。

1  使用ベアリング数による方法について(第一表備考1)

被告は豆すり機については一台につき使用ベアリングを一個として計算をしているが証人山西敏男の証言及び原告本人尋問の結果によれば原告製造の豆すり機には動力式と足踏式とがあり後者については一台につきベアリング数個を使用することが認められるので、右方法は採用しがたい。

2  鋳物代金等による方法について(第一表備考2)

被告は豆すり機一台に要する鋳物の重量を足踏式については二〇貫、動力式については一二貫として計算しているが、そう認めるだけの証拠がないので、この方法も採りがたい。

3  使用砥石による方法について(第一表備考3)

砥石の期間仕入の枚数及び価格、並びに豆すり機一台に要する砥石が二枚であることは当事間に争いがない、従つて当時の砥石一枚の平均価格が六〇一円従つて二枚分一二〇二円であることは算数上明白であり、且成立に争いない乙第四号証により原告が昭和三一年六月一〇日昭和二七年度豆すり機の原価計算書に砥石代を一六〇〇円として提出していることは認められるが、同時に成立に争いない乙第二号証(昭和二七年八月一二日原告の供述調書)には昭和二六年分の原告所得の調査においても豆すり機一台に砥石三枚使用として計算したとの供述記載があり元来原告の所得計算に確実な資料のない本件では原告提出の計算書もこれに関する裏付資料のない限り正確なのとはいいがたく、豆すり機一台に使用した砥石の原価が一六〇〇円であるとの点は結局明確でなくこれを前提とする豆すり機数の計算も当を得たものとはいいがたい。

以上の次第で豆すり機売上数を五八五台とする被告の主張は採用しがたい。(なお、この点について五〇〇台とする原告の主張(第四表1)も当裁判所で措信しがたい原告本人の供述の外には証拠がなく、結局売上豆すり機を確資料はない。)

そうすると被告主張の第一表計算の基本となる製品売上額が確定しがたいので、第一表のその他の点を判断することなく第二表による被告の計算の当否の検討に移ることとする。

もつともこの点に関して、製品売上額が原告の認める三六万九七〇〇円の範囲では当事者間に争いないということになるがこれは被告主張額より九五万七〇〇円減少することとなり、被告主張の支出額六六一万七〇一九円が認定されても所得額は七五万一四八一円となり更正所得額を下廻ることとなり被告としてはこれより先に第二表によるべきことを主張するのと解せられる。

四、第二表による方法について

この点について原告は当時の営業状態或いは現殊製品であることから一般の基準によることは失当であるというけれども原告の営業状態が其程のものと認めるだけの証拠はない。原告本人の供述も抽象的に当時の営業不振をいうのみで具体的なものでなく採用しがたい。原告事業の収支につき整備された資料のないことは、二認定の通りである以上一般基準によることを是認すべきである。

1  第一の方法は豆すり機売上数を五八五台とすることが、三に検討したとおり相当でないので採用しがたい。

2  第二の方法について

被告は豆する機一台の価格を一一、四〇〇円としているが、むしろ原告主張の五〇〇台五七一万二〇〇〇円として計算することが端的であり、耕耘機の価格については争いがたいのでこれを除いて計算することとする。

証人笹川峯彦の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第五号証の一、二よにれば広島国税局が管内の業者を調査検討して決定作成した昭和二七年度所得標準率機械器具製造業者では収入金額一〇〇円につき所得金額が三二円四〇銭であることが認められ本件において二、及び本項冒頭記載のような事情からこれによることも止むを得ぬものと認められ、この判断を左右するだけの根拠はない。

そうすると前掲豆する機五〇〇台について計算しただけでも所得額は一八五万〇六八八円となり、原告の昭和二七年分の所得が右額を署しく下廻るような特段の事情はない本件では、被告のした更正所得額九七万円は少額に過ぎることはあつても、原告の所得がこれを下廻るものとは到底認めがたい。

五、以上の次第で原告の昭和二七年分所得を九七万円とする被告の更生額は違法とは認められず原告に扶養親族が七人あることは弁論の全趣旨から原告の認めるところであるから、所得税法の該当法条(同法第一一条の六、第一二条、第一三条、第五七条等)を適用計算するとき税額が金三〇万円となり、過少申告加算税額金一万三五五〇円もまた正当であること明白であるから原告の請求を棄却することとし、民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 辻川利正 矢代利則 福長惇)

第一表、第二表〈省略〉

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